2025/06/08 23:23

今回はフィンランドのアラビア社で作られた「サーラ」シリーズのデザインについてです。
まずは、フォルム(形)について。
Mモデルと呼ばれるデザインです。
サーラの他にも、Karelia(カレリア)、Taika(タイカ)、Pirtti(ピルッティ)、Kaira(カイラ)、Soraya(ソラヤ)など、たくさんのシリーズで採用されたフォルムです。
こうしてあげてみると、日本の民藝など、和の雰囲気を感じるものが多いような気がしますので、私たちの暮らしの中にも取り入れやすいモデルだと思います。
やや厚みのあるぽってりしたフォルムですが、ぽってりとしすぎず、スッとした感じもある絶妙なバランスで、艶のある仕上がりが特徴です。
そして、このモデル最大のチャームポイントだと思うのが、カップの持ち手の付け根の部分がカールしているところ。
全体的にはシンプルで素朴な雰囲気ですが、クルッとカールで一気にエレガントさというか可愛らしさが出ているような気がします。
そして、この形、結構握りやすいです。

Mモデルをデザインしたのは、
①夫のPeter Winquist(ペテル・ウィンクヴィスト)
②妻のAnja Jaatinen-Winquist(アンヤ・ヤーティネン-ウィンクヴィスト)
③夫妻の共作
の3説あるようです。
個人的には、他にもご夫妻二人で手掛けた作品がたくさんあるので、サーラも相談しながら作り上げたWinquist夫妻の共作なのではないかと想像しています。
次は、デコレート(装飾)について。
こちらは、妻のAnja(アンヤ)によるデザインです。
彼女のデザインは、可愛らしい色使いのものから、シックで落ち着いた表情のものまで幅広く、独特の感性で生み出された色合いや温かみのある作風が魅力です。
音楽が好きで、自然から作品のインスピレーションや癒しを得ていたというエピソードもあったり、おそらく感受性豊かで、日々の生活の中にある美しさを大切にする人だったのではないでしょうか。
サーラのデザインは、一見落ち着いた大人しめの印象ですが、とても手の込んだ作り方がされています。
私が一番心を動かされたのは、背景の茶色っぽい部分です。じっくり見てみると、どこかで見覚えのある釉薬の感じ。
アラビアの代表作、Ruska(ルスカ)に近い釉薬が使われたのではないかと言われています。
ルスカと同じように、釉薬の厚みや焼きの加減によって、色味、色の濃淡、色の滲みやムラなどにかなりの個体差があり、それが人の手の温かみや味わいを感じさせてくれます。
ルスカは表面がマットな感じなのに対して、サーラは艶のある質感になっています。
人生で初めて買った北欧ヴィンテージ食器がルスカだったということもあってか、私がサーラにぐっと惹きつけられるきっかけになりました。

Saara(サーラ)

Ruska(ルスカ)
深いコバルトブルーの花柄の部分は、エアブラシを使ったステンシル技法で描かれています。
花模様の型紙(ステンシル)を素地や白い釉薬の上に置いて、その上から塗料をエアブラシで吹き付けて色付けされています。
エアブラシを使うことで、縁のところがぼやけた仕上がりで、柔らかくて優しい印象の花柄になっています。
ソーサーの縁とカップの上下の青と黒のラインは手描きで描かれています。

このように、いくつかの違う方法でデコレートされていながら、それらが見事に調和している、とても奥の深い作品だなと思います。
また、サーラには意図的に表現された滲みがよく見られることも特徴です。
これは塗料の上に塗られた透明な釉薬が、窯で焼かれる時に溶けて流れたもので、その偶然の美しさは、まるでしっとりとした雨の日の静けさのような、繊細で柔らかい雰囲気を醸し出しています。
Anja(アンヤ)の他の作品にもよく見られる手法で、美しい滲みが彼女のデザインの魅力の一つになっています。
照明を落とした部屋で、小さな暖かい灯りの下で眺めるサーラが私の最近のお気に入りです。